賞与(ボーナス)の決め方|中小企業の支給基準と計算方法
2026年8月31日 公開 ・ 約8分で読めます
賞与は法律上の支給義務がない一方、制度設計次第で業績配分と人材定着の両方に効く。本記事では、中小企業が賞与の原資・支給基準・計算方法をどう決めればよいか、具体的な計算式と就業規則への明記方法まで実務目線で解説する。
賞与とは何か|法律上の義務ではない支給
賞与(ボーナス)は、法律で支給が義務付けられているものではない。月給と異なり、就業規則や労働契約で「支給する」と定めていない限り、企業は支給しなくても違法にはならない。ただし、就業規則や賃金規程に支給基準を明記した場合は、その基準に沿って支給する義務が発生する点に注意が必要である。
中小企業にとって賞与は、業績配分と人材定着の両面で機能する。定期昇給を抑えつつ賞与で還元する設計にすれば、業績が悪化した年に固定費を圧縮しやすくなる一方、業績が良い年は従業員への還元を厚くできる。まず自社にとって賞与を「固定的な処遇」とするか「業績連動の変動費」とするかを明確にすることが、制度設計の出発点になる。
賞与原資の決め方|利益配分の考え方
賞与原資の決め方には、大きく分けて「業績連動方式」と「固定額方式」がある。業績連動方式は、営業利益や経常利益の一定割合(例:経常利益の10〜20%程度)を原資とする方法で、業績が採用担当者にも見えやすく、経営者が説明しやすいという利点がある。固定額方式は、基本給の◯カ月分といった形で毎回一定の支給を約束する方式で、従業員の生活設計を立てやすい反面、業績が悪化した年でも支給義務が生じやすい。
中小企業では、基本給の1〜2カ月分を目安に、業績によって増減させる「変動賞与」を採用するケースが多く見られる。原資を決める際は、賞与に充てられる利益から、法人税・納税準備金・設備投資・運転資金を確保したうえで残った金額を配分する、という順序を明確にしておくと、支給額の説明責任を果たしやすい。
原資を決めたら、それを「全社配分枠」として、部門別・個人別にどう配分するかという次のステップに進む。原資の決め方と配分の決め方を別々のルールとして分離しておくと、毎年の見直しがしやすくなる。
支給基準の設計|評価と連動させる方法
支給基準は、大きく「基本給連動型」「評価連動型」「一律支給型」の3パターンに整理できる。基本給連動型は「基本給×◯カ月」を基準額とし、そこに人事評価による増減率を掛け合わせる方式で、多くの中小企業で採用されている。評価連動型は、目標達成度や行動評価の結果を賞与額に直接反映させる方式で、成果主義を強めたい企業に向くが、評価制度自体が未整備な状態で導入すると不公平感を招きやすい。
評価連動型を導入する場合は、評価基準を事前に従業員へ開示し、何を達成すれば賞与が増えるのかを明確にしておく必要がある。評価が主観的になりやすい中小企業では、まず簡易な評価シート(目標達成度・勤務態度・チーム貢献度など3〜5項目程度)を用意し、評価者間で基準をすり合わせる運用から始めるのが現実的である。
在籍期間が短い従業員への対応も決めておく必要がある。多くの企業では、試用期間中や入社間もない従業員には賞与を支給しない、または在籍月数に応じて日割り・月割りで按分支給する規定を設けている。この点は就業規則に明記し、採用時の労働条件通知書でも説明しておくとトラブルを避けやすい。
賞与額の計算方法|具体的な計算式の例
最も一般的な計算式は「基準額(基本給×支給月数)×評価係数×出勤率」である。例えば基本給25万円、支給月数1.5カ月、評価係数1.0(標準評価)の場合、基準額は37.5万円となる。評価がS評価で係数1.2なら45万円、C評価で係数0.8なら30万円というように、評価によって支給額に差をつける設計が一般的である。
出勤率による減額も実務上よく用いられる。査定期間中の出勤率が一定水準(例:80%)を下回る場合に減額または不支給とする規定を設けている企業は少なくない。ただし、育児休業や介護休業、業務上の傷病による欠勤を出勤率の計算から除外するなど、法令上配慮すべき点があるため、規定を作る際は社会保険労務士に確認することが望ましい。
賞与からは社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)と所得税が控除される。特に社会保険料は月給とは別に賞与保険料として徴収されるため、資金繰り上、支給総額に対して額面の約15%前後(企業負担分を含めるとさらに増える)が保険料相当として必要になる点を、原資計算の段階で見込んでおく必要がある。
支給時期と回数の決め方
中小企業では、夏季(6〜7月)と冬季(12月)の年2回支給が最も一般的である。業績が安定しない企業では、決算賞与として期末に1回のみ支給する、または業績確定後に臨時で支給するという方法もある。支給時期は就業規則に明記し、査定期間(いつからいつまでの実績を評価対象とするか)とあわせて従業員に周知しておく。
決算賞与は、法人税の損金算入要件(未払いであっても、決算日から1カ月以内に全従業員に支給額を通知し、実際に支給することなど)を満たせば当期の損金にできるため、節税と従業員還元を両立させる手段として利用する企業もある。ただし要件を満たさないと損金算入できないため、導入時は税理士に確認することが不可欠である。
就業規則への明記と運用上の注意点
賞与を支給する場合、就業規則(賃金規程)に「支給時期」「支給対象者(在籍要件)」「算定方法」「業績により支給しない場合がある旨」を明記しておくことが望ましい。特に「業績により支給しないことがある」という一文を入れておかないと、慣行として賞与支給が既得権化し、業績悪化時にも減額・不支給の判断がしにくくなる場合がある。
内定者や中途採用者への説明も重要である。採用面接や内定通知の段階で賞与の有無・目安額・支給条件を曖昧に伝えると、入社後の期待値とのギャップから内定辞退や早期離職につながることがある。求人票や労働条件通知書には、実態に即した支給実績(前年度実績など)を記載し、誇張のない情報提供を心がけたい。
賞与制度は一度作って終わりではなく、業績や採用市場の状況に応じて毎年見直す運用が現実的である。評価制度や等級制度とあわせて定期的に点検し、従業員が「何をすれば賞与が上がるか」を理解できる状態を維持することが、制度を機能させる鍵になる。
この記事のまとめ
- 賞与は法律上の義務ではないが、就業規則に基準を明記すると支給義務が発生する
- 原資は利益から納税・投資・運転資金を確保した残りを配分する順序で決めると説明しやすい
- 支給基準は基本給連動型・評価連動型・一律支給型に整理し、評価連動なら評価基準の事前開示が不可欠
- 計算式は「基準額×評価係数×出勤率」が一般的で、社会保険料控除分を原資計算に見込む必要がある
- 「業績により支給しないことがある」旨の明記と、採用時の実態に即した説明がトラブル防止につながる