採用通知書・内定通知書・労働条件通知書の違いと使い分け
2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます
内定通知書・採用通知書・労働条件通知書は名前が似ていて混同されがちですが、法的な位置づけと役割はそれぞれ異なります。中小企業の採用担当者が内定時に何をどの順で渡せばよいか、実務目線で整理します。
3つの書類はそもそも役割が違う
内定通知書と採用通知書は、実務上ほぼ同じ意味で使われることが多く、応募者に対して「あなたを採用します」という意思表示を書面で伝えるための書類です。法律で様式や交付が義務づけられているわけではなく、企業が任意に作成しています。
一方で労働条件通知書は、労働基準法第15条にもとづき、企業が労働契約を結ぶ際に必ず交付しなければならない法定書類です。賃金や労働時間などの労働条件を明示する義務を果たすためのものであり、内定通知書とは法的な性格がまったく異なります。
つまり内定通知書は「採用の意思表示」、労働条件通知書は「労働条件の法定明示」という、目的が別の書類だと理解しておくと使い分けを間違えません。
内定通知の法的な意味合いを押さえる
新卒採用の内定については、企業からの募集を「申込みの誘引」、応募者の応募を「労働契約の申込み」、企業からの内定通知を「承諾」ととらえ、内定時点で始期付き解約権留保付きの労働契約が成立していると解釈されるのが一般的です。この考え方は最高裁判例(大日本印刷事件)を通じて広く定着しています。
中途採用でも、内定通知に「入社日」「配属予定」などが明記され、応募者が承諾すれば、同様に労働契約が成立したとみなされる場合があります。つまり内定通知書を出す行為そのものに、契約上の重みがあることを経営者・採用担当者が意識しておく必要があります。
このため、内定通知書を出した後に一方的に取り消すこと(内定取消し)は、通常の解雇と同様に客観的合理的理由と社会通念上の相当性が求められ、簡単には認められません。内定通知書の文面は「口約束の延長」ではなく、契約行為として扱う意識が必要です。
労働条件通知書に何を書くべきか
労働条件通知書には、労働契約の期間、就業場所、従事する業務内容、始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払方法、退職に関する事項(解雇事由を含む)などの絶対的明示事項を記載する必要があります。パートタイム・有期雇用労働者の場合は、昇給・賞与・退職手当の有無なども追加で明示が求められます。
36協定を締結して時間外労働をさせる可能性がある場合は、その旨や上限の考え方についても、就業規則等とあわせて説明できるようにしておくと、入社後のトラブルを防ぎやすくなります。
労働条件通知書は、2019年の改正以降、労働者が希望すればFAXや電子メール、SNSのメッセージ機能などでの電子交付も認められています。書面での手渡しにこだわらず、応募者の状況に合わせて交付方法を選べる点も実務上のポイントです。
内定時に渡す順番と実務フロー
実務では、内定連絡(電話やメール)→内定通知書の送付→労働条件通知書(兼 雇用契約書)の送付→入社誓約書・身元保証書等の回収、という流れが一般的です。企業によっては内定通知書と労働条件通知書を1つの書類にまとめて同時に渡すケースもあり、母集団形成の段階から入社までの導線を短くしたい中小企業では、この一体型の方が運用がシンプルです。
ただし労働条件通知書に記載すべき事項が漏れると法違反になるため、内定通知書のフォーマットを流用して労働条件通知書を兼ねる場合は、絶対的明示事項がすべて盛り込まれているか必ずチェックしてください。
入社日が確定していない段階(内々定など)で労働条件を確定しきれない場合は、まず内定通知書で意思表示を行い、条件確定後に労働条件通知書を追送する二段階の運用も選択肢になります。ただしこの場合、内定通知書の時点でも主要な条件(給与見込み、勤務地、職種)はできる限り明記し、認識のズレを防ぐことが内定辞退の防止につながります。
内定辞退を防ぐための書類運用の工夫
内定辞退が起きる典型的な原因の一つに、口頭で伝えた条件と書面の条件にズレがあり、応募者が不信感を持つケースがあります。面接時に伝えた給与レンジや勤務条件と、労働条件通知書の記載内容が一致しているか、送付前にダブルチェックする運用をルール化しておくと安心です。
労働条件通知書を送るタイミングが遅いと、応募者が他社の内定と比較検討する時間が長くなり、辞退リスクが高まる場合があります。内定通知から労働条件通知書の送付までの標準日数を社内で決めておき、遅延なく発送できる体制を整えることが実務上重要です。
入社日までの期間が空く場合は、労働条件通知書の送付だけで終わらせず、配属先の紹介や研修スケジュールの共有など、オンボーディングにつながる接点を挟むことで、条件面以外の不安を減らす効果も期待できます。
よくある誤りとチェックリスト
よくある誤りとして、内定通知書だけを送って労働条件通知書を出し忘れる、口頭説明で済ませて書面を残さない、試用期間中の労働条件(本採用時と異なる場合)を明示していない、といったケースが挙げられます。試用期間中と本採用後で条件が変わる場合は、その旨も労働条件通知書に明記する必要があります。
発送前には、(1)内定通知書で採用の意思表示を明確にしたか、(2)労働条件通知書の絶対的明示事項に漏れがないか、(3)面接時の口頭説明と書面の内容が一致しているか、(4)試用期間や有期雇用の条件を区別して記載しているか、の4点を確認する運用を、採用フローに組み込んでおくことをおすすめします。
この記事のまとめ
- 内定通知書は「採用の意思表示」、労働条件通知書は労働基準法第15条にもとづく「法定の労働条件明示」であり、目的も法的性格も異なる。
- 内定通知の時点で労働契約が成立していると解釈される場合があるため、内定取消しは通常の解雇と同様の慎重な判断が必要になる。
- 労働条件通知書には絶対的明示事項の記載漏れがないかを必ず確認し、内定通知書と一体化する場合も抜け漏れをチェックする運用を組み込む。
- 面接時の口頭説明と書面の記載内容にズレがないかを送付前にダブルチェックすることが、内定辞退の防止につながる。
- 労働条件通知書は本人が希望すれば電子交付も可能なため、応募者の状況に応じて交付方法を柔軟に選べる。