内定辞退で損害賠償と言われたら?応募者が知っておくこと
2026年8月31日 公開 ・ 約6分で読めます
内定辞退を伝えたら「損害賠償」という言葉が出てきて不安になった、という相談は少なくありません。法律上の考え方と、実際に言われたときの落ち着いた対応手順、トラブルを避ける伝え方までをまとめて解説します。
内定辞退そのものは法的に自由にできる
労働契約は民法上の「期間の定めのない契約」に準じて扱われ、労働者側にはいつでも解約を申し入れる自由がある。民法627条1項では、期間の定めのない雇用契約は解約の申し入れから2週間で終了すると定められており、これは内定という労働契約成立後の場面にも一般に当てはめて考えられている。つまり内定辞退そのものを理由に法的な責任を問われることは、通常は考えにくい。
内定通知を受け取った時点で、始期付きの労働契約が成立していると解釈されるのが一般的な考え方である。だからといって「辞退したら必ず契約違反になる」というわけではなく、辞退の自由と契約成立は別の話として整理しておくとよい。
「損害賠償」と言われても慌てなくてよい理由
企業の採用担当者から「損害賠償を検討する」といった発言があった場合でも、それが即座に法的な支払い義務につながるわけではない。損害賠償が認められるには、辞退の時期・態様が著しく信義則に反すること、企業側に現実の損害が発生していること、辞退と損害の因果関係が明確であることなど、複数の要件が積み重なる必要があるとされている。
実際の裁判例でも、内定辞退そのものを理由に高額な賠償が認められた例は一般に極めて限定的とされる。感情的な発言や引き止めのための強い言葉である場合も多く、その場で反論したり過度に恐れたりせず、事実関係を整理する姿勢が大切である。
賠償責任が問題になり得る具体的なケース
一般的な内定辞退で問題になることは少ないが、例外的に責任が議論されやすいケースもある。たとえば入社日直前や研修・オンボーディングの準備がすでに進んだ段階での突然の辞退、企業側が個別に用意した特別な採用枠や、辞退を前提に既に発生していた実費(社宅契約、研修費用など)がある場合には、信義則違反や損害の主張がされることがある。
また、内定承諾書に「辞退した場合は違約金を支払う」といった条項がある場合でも、労働基準法16条により、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額を予定する契約は禁止されている。そのため、こうした条項自体が無効と判断される可能性が高いとされる。
損害賠償を示唆されたときの対応手順
まずは感情的にならず、いつ・誰から・どのような内容を伝えられたかを日時とともに記録する。メールや書面でのやり取りであれば保存しておき、口頭であれば直後にメモを残すとよい。
そのうえで、辞退の意思と理由を簡潔に、書面(メールでも可)で改めて伝える。強い口調で連絡が来ても、電話で言い合いにならないようにし、必要であれば「書面でご連絡いただけますでしょうか」と伝えて記録を残す形に誘導するのも一つの方法である。
不安が大きい場合は、労働基準監督署の総合労働相談コーナーや、法テラス、弁護士会の無料法律相談などの公的な相談窓口を早めに利用するとよい。一人で抱え込まず、第三者の視点を入れることで冷静に状況を判断しやすくなる。
そもそもトラブルを避けるための辞退の伝え方
内定辞退の連絡は、決断した時点でできるだけ早く伝えることが望ましい。入社日が近づくほど企業側の準備(研修計画、配属調整、他の候補者への対応など)が進んでおり、遅い連絡ほど心証を損ねやすい。
連絡は電話一本で済ませず、その後にメールなど記録の残る形でも辞退の意思と簡単な理由を伝えると誠実な印象になる。理由を詳細に説明する義務はないが、「他社から内定をいただき、そちらで働くことを決めました」程度の簡潔な説明は、円満な辞退につながりやすい。
承諾書や誓約書にサインしていても心配しすぎない
内定承諾書や誓約書にサインしていても、それだけで内定辞退ができなくなるわけではない。前述の通り、労働契約の不履行に対する違約金予定は労働基準法で禁止されており、仮に承諾書に「辞退不可」といった記載があっても、その部分の効力は一般に否定的に解されることが多い。
とはいえ、書面の内容や状況によって評価が変わる可能性もあるため、記載内容に強い不安を感じる場合は、自己判断で放置せず、早めに専門家や公的相談窓口に確認しておくと安心である。
この記事のまとめ
- 内定辞退そのものは民法上、労働者に認められた自由であり、それだけで損害賠償責任が生じることは一般に考えにくい
- 内定承諾書等の違約金予定条項は労働基準法16条により無効とされる可能性が高い
- 「損害賠償」と言われても感情的に反応せず、日時・内容を記録し、書面でのやり取りに誘導するとよい
- 不安が大きい場合は労働基準監督署の総合労働相談コーナーや弁護士など公的・専門窓口へ早めに相談する
- 辞退を決めたら早めに連絡し、電話とメールなど記録の残る形を併用すると円満に進みやすい