内定時に渡す労働条件通知書の書き方と必須記載項目
2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます
内定を出す際に交付する労働条件通知書は、法律で定められた必須記載事項を漏れなく書面化する必要がある。本記事では、必須項目の内容、書式選びと電子交付の実務、労働契約書との違い、交付タイミング、よくあるミスと防止策までを実務目線で解説する。
労働条件通知書とは何か、なぜ内定時に必要なのか
労働条件通知書は、雇用契約を結ぶにあたって企業が労働者に対して労働条件を明示するための書面である。労働基準法第15条により、企業は労働契約の締結時に一定の労働条件を書面で明示する義務を負っており、内定通知や採用通知とあわせて交付するのが一般的な実務である。
内定時にきちんとした労働条件通知書を渡すことは、単なる法令対応にとどまらない意味を持つ。給与や勤務条件が曖昧なまま内定を出すと、入社直前になって「聞いていた条件と違う」という不信感につながり、内定辞退の一因になる場合がある。労働条件通知書は、母集団形成から選考を経てようやく合意に至った候補者との約束を、書面という形で確定させる最後の工程だと捉えるとよい。
労働条件通知書の必須記載事項
労働基準法施行規則第5条により、書面での明示が義務づけられている事項がある。具体的には、労働契約の期間、期間の定めがある場合の更新の基準、就業の場所および従事すべき業務、始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払方法および締切・支払時期、退職に関する事項(解雇の事由を含む)が該当する。
2024年4月からは、就業場所・業務の変更の範囲についても書面明示事項に追加されている。加えて、有期契約の場合は更新上限の有無とその内容、無期転換申込機会・無期転換後の労働条件についても明示が必要になった。中小企業では有期雇用のパート・契約社員を採用する機会も多いため、この改正内容を反映した最新の様式を使っているか、一度確認しておくとよい。
退職手当、賞与、最低賃金額に関する事項など、就業規則に定めがある場合に明示が求められる事項もある。これらは書面明示が絶対条件ではないが、就業規則の関係条項を明示する形でも対応できるため、就業規則を整備している企業は条文番号を示すだけでも実務上は足りる場合がある。
書式選びと電子交付の実務
労働条件通知書の様式は、厚生労働省が公開しているモデル様式を土台に自社仕様へ調整するのが最も効率的である。一般労働者用、パートタイム・有期雇用労働者用など雇用形態別の様式が用意されているため、正社員採用と非正規採用で使い分けるとよい。
労働条件の明示は、労働者が希望した場合に限り、FAXや電子メール、SNSのメッセージ機能等での交付も認められている。ただし電子交付の場合でも、労働者が内容を書面として出力できる方法によることが要件となるため、PDF添付など出力可能な形式で送るのが実務上の基本である。口頭のみでの説明や、社内チャットでの簡易な連絡だけで済ませることは法令上認められていない点に注意する。
採用担当者が変更管理を怠ると、旧様式のまま2024年改正前の内容で交付してしまうミスが起こりやすい。テンプレートファイルを最新版に更新し、更新履歴を残しておくことで、属人化を防ぎ、担当者が変わっても同じ品質で交付できる体制を作れる。
労働契約書との違いと兼用の可否
労働条件通知書は企業から労働者への一方的な明示行為であり、法律上は企業が交付すれば義務を果たしたことになる。一方、労働契約書は労使双方が署名・押印して合意内容を確認する書面であり、法律上の作成義務はないが、後日のトラブル防止のために取り交わす企業も多い。
実務では「労働条件通知書兼労働契約書」として一つの書面にまとめ、労働者の署名欄を設ける形式が広く使われている。これにより、条件明示の義務を果たしつつ、双方合意の証跡も残せるため、中小企業にとっては管理の手間を減らせる方法だといえる。
兼用書式を使う場合は、労働者の署名・押印欄と交付日を明記し、控えを労働者本人にも渡すことを忘れないようにする。原本を企業側だけが保管する運用は、後日「説明を受けていない」といった主張を招きやすく、避けたほうがよい。
内定通知から入社日までの交付タイミング
労働条件通知書の交付義務が生じるのは「労働契約締結の際」であり、内定通知によって労働契約が成立したと解釈される時点である。一般的な新卒・中途採用では、内定承諾をもって労働契約が成立すると考えられる場合が多いため、内定通知と同時、または内定承諾書の提出と引き換えに交付するのが実務上の目安になる。
試用期間を設ける場合は、試用期間中の労働条件(賃金や契約期間の扱いが本採用後と異なる場合はその内容)も明示しておく必要がある。試用期間の位置づけを曖昧にしたまま採用を進めると、入社後の説明と食い違い、早期離職や労使トラブルにつながる場合がある。
内定から入社まで期間が空く新卒採用などでは、内定時点の労働条件通知書に加え、入社直前にオンボーディング資料とあわせて再確認の機会を設けると、条件の記憶違いによる内定辞退や初日のミスマッチを防ぎやすい。
作成・交付でよくあるミスと防止策
中小企業でよく見られるミスは、賃金の内訳(基本給、固定残業代、各種手当の内容)が曖昧なまま総額のみを記載してしまうケースである。固定残業代を採用している場合は、固定残業代に含まれる時間数と、それを超えた場合に追加支払いが発生する旨を明記しないと、後日の未払い賃金トラブルや求人票との齟齬を指摘されるリスクがある。36協定の締結・届出状況とあわせて、時間外労働の実態と記載内容が一致しているかも確認しておきたい。
もう一つの典型的なミスは、求人票や面接時の説明と労働条件通知書の内容が食い違うことである。採用担当者と現場責任者の間で条件のすり合わせができておらず、通知書だけ古い条件のまま作成されてしまう例もある。採用フローの中に「通知書の内容を現場責任者と最終確認する」工程を組み込み、チェックリスト化しておくと、担当者が変わっても抜け漏れを防ぎやすい。
この記事のまとめ
- 労働条件通知書は労働基準法第15条に基づく交付義務があり、契約期間・就業場所・業務内容・労働時間・賃金・退職事項などは書面明示が必須である
- 2024年4月の改正により、就業場所・業務の変更の範囲や有期契約の更新上限・無期転換に関する事項も明示対象に追加された
- 電子交付は労働者が希望し、かつ本人が書面として出力できる形式であれば認められる(口頭やチャットのみでの説明は不可)
- 労働条件通知書兼労働契約書として一体化し、労働者の署名・控えの交付まで行うと、後日のトラブル防止につながりやすい
- 内定通知から入社までの間に求人票・面接説明・通知書の記載内容が一致しているか、採用フローの中で確認する仕組みを作ることが重要である