36協定とは?残業に必要な届出と上限規制をわかりやすく解説
2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます
36協定とは、法定労働時間を超える残業や休日労働をさせるために労使間で結ぶ協定である。この記事では、締結・届出の実務手順、2019年の働き方改革で罰則付きとなった上限規制の仕組み、違反時のリスクまで、中小企業の経営者・採用担当者が押さえるべき実務ポイントを解説する。
36協定とは何か—時間外労働・休日労働をさせるための労使協定
36協定とは、労働基準法36条に基づき、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて残業させたり、法定休日に働かせたりする場合に、労使間で結ぶことが義務付けられている協定のことである。正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定届」で、条文番号がそのまま通称になっている。
この協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ていなければ、1分でも法定時間を超える残業を命じることは労働基準法違反となる。届出をしていない状態での残業指示は、事業主本人が違反を認識していなくても是正勧告や罰則の対象になり得る点は、中小企業の経営者・採用担当者が特に見落としやすい部分である。
36協定は「残業を許可する魔法の書類」ではなく、あくまで法定時間を超える働き方について労使が上限を定め合意した記録である。締結すれば無制限に残業させられるわけではなく、後述する上限規制の範囲内でのみ有効という点を押さえておく必要がある。
締結・届出の実務手順
36協定は、事業場ごとに労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と使用者が書面で締結する。過半数代表者は、投票や挙手など民主的な方法で選出する必要があり、事業主が一方的に指名した者では有効な協定とは認められない場合がある。
締結した協定は、様式第9号(特別条項がない場合)または様式第9号の2(特別条項がある場合)を用いて、所轄の労働基準監督署へ届け出る。届出は事業場ごとに必要で、複数拠点を持つ企業は本社一括届出の制度を利用できる場合があるが、要件を満たすか事前確認が必要である。
協定の有効期間は最長1年とすることが一般的な運用であり、期間満了ごとに再締結・再届出が必要になる。更新を失念したまま従業員に残業させてしまう例は中小企業で起こりやすいため、有効期限を人事労務の年間スケジュールに組み込んでおくことが実務上有効である。
時間外労働の上限規制—原則と特別条項
2019年4月(中小企業は2020年4月)の働き方改革関連法施行により、時間外労働の上限は罰則付きで法律に明記された。原則の上限は月45時間・年360時間であり、36協定を締結してもこの範囲を超える残業は本来認められない。
臨時的な特別の事情がある場合に限り、「特別条項」を協定に盛り込むことで上限を引き上げられる。ただしこの場合も、年720時間以内、休日労働を含む単月100時間未満、複数月(2〜6か月)平均で休日労働を含め月80時間以内という上限があり、月45時間を超えられるのは年6か月までという制約も付く。
特別条項はあくまで「臨時的」な措置であり、繁忙期を理由に毎月適用するような運用は制度趣旨に反すると判断される場合がある。特別条項を適用する具体的な事由(決算業務、大型受注対応など)をあらかじめ協定に明記しておくことが求められる。
違反した場合のリスク
上限規制に違反した場合、労働基準法119条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性がある。是正勧告を受けても改善しない悪質なケースでは、送検・企業名公表に至ることもあり、採用活動や取引関係への影響も無視できない。
近年は求職者が企業の労務コンプライアンスを口コミサイトや求人票の記載から確認する傾向が強まっており、36協定の未整備や長時間労働の実態は、母集団形成の段階で敬遠される要因になり得る。中小企業にとって36協定の適正運用は、法令順守だけでなく採用競争力にも関わる論点である。
適用除外・注意が必要な業種
建設事業、自動車運転の業務、医師などについては、上限規制の適用に猶予期間が設けられていた経緯があり、業種ごとに個別の取り扱いが定められている場合がある。該当する業種の経営者は、一般則をそのまま適用できるとは限らないため、最新の制度内容を所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確認することが望ましい。
また、管理監督者や高度プロフェッショナル制度の対象者など、労働時間規制の適用が異なる従業員区分も存在する。誰が36協定の対象範囲に含まれるかを人事担当者が正確に把握していないと、届出漏れや誤った運用につながりやすい。
中小企業が実務でつまずきやすいポイント
よくある誤解は「36協定さえ結べば残業は自由にさせられる」というものだが、実際には協定に定めた上限時間を超えて働かせることはできず、上限を超える見込みが生じた時点で業務配分や人員体制の見直しが必要になる。試用期間中の従業員や有期契約者も36協定の適用対象に含まれる点も見落とされがちである。
採用担当者が36協定の内容を理解していないと、求人票に記載する想定残業時間と実態が乖離し、内定辞退や早期離職の原因になることもある。オンボーディングの段階で自社の36協定の上限と実際の残業実績を新入社員に説明しておくと、入社後のミスマッチを減らす一助になる。
協定書・届出書は労働基準監督署の調査時に提示を求められる基本書類であるため、締結日・有効期間・特別条項の適用実績を一覧管理しておくと、更新漏れや説明対応の手戻りを防ぎやすい。
この記事のまとめ
- 36協定は、法定労働時間を超える残業・休日労働をさせるために労使で締結し労働基準監督署へ届け出る協定であり、未届の残業指示は労働基準法違反になり得る
- 時間外労働の上限は原則月45時間・年360時間で、特別条項を付けても年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内などの制約がある
- 協定の有効期間は最長1年が一般的で、期間満了ごとの再締結・再届出を忘れると違反状態になりやすい
- 違反時は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になり得るほか、採用活動における企業イメージにも影響し得る
- 求人票の残業時間表記と実態の乖離は内定辞退や早期離職につながりやすく、オンボーディングでの説明が有効である