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給与・待遇・評価制度の設計

賃金規程とは?中小企業が最低限定めるべき項目と作成手順

2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます

賃金規程とは、賃金の決定方法や支払方法を定めた社内規程で、常時10人以上を使用する事業場では就業規則の一部として届出が必要になる。本記事では最低限定めるべき記載項目と、作成から届出・周知までの実務手順を解説する。

賃金規程とは何か

賃金規程とは、従業員に支払う賃金の決定方法、計算方法、支払方法、締切日と支払日などを定めた社内規程である。就業規則の一部として作成する会社もあれば、就業規則本体とは別に独立した規程として作成する会社もある。

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して、賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払時期などを就業規則に記載し、所轄労働基準監督署へ届け出ることを義務づけている。賃金規程は、この就業規則の記載事項を賃金に関して詳細化したものと位置づけられる。

賃金規程が必要な理由

賃金規程がない、または内容が曖昧なままだと、昇給や賞与の算定根拠を従業員に説明できず、不信感や離職につながりやすい。中途採用者との待遇差や、同一労働同一賃金の観点での説明責任を果たす上でも、賃金の決め方を文書化しておく意味は大きい。

また、賃金規程は求人票や労働条件通知書に記載する賃金条件の根拠にもなる。母集団形成の段階で提示する給与レンジや、内定時に渡す労働条件通知書の内容が規程と食い違っていると、内定辞退やトラブルの原因になりかねない。採用活動の土台として賃金規程を整備しておくことは、採用担当者にとっても実務上のメリットがある。

最低限定めるべき記載項目

中小企業が賃金規程を作成する際に最低限盛り込むべき項目は、大きく分けて次のとおりである。基本給の決定方法(学歴・経験・職務等級など何を基準にするか)、諸手当の種類と支給条件(役職手当、通勤手当、住宅手当、時間外勤務手当など)、賃金の計算期間と支払日(締切日・支払日)、賃金の支払方法(銀行振込の可否、控除項目)。

加えて、昇給の時期と基準、賞与の算定方法と支給時期(支給する場合)、時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金の計算方法、欠勤・遅刻・早退時の賃金控除の扱いも必須項目に含まれる。割増賃金の計算は労働基準法第37条に基づく法定割増率を下回らないよう注意が必要である。

試用期間中の賃金を本採用時と異なる金額に設定する場合は、その旨と条件を明記しておく。試用期間中の賃金を正社員より低く設定すること自体は一般に可能とされているが、募集時・内定時に条件を明示していないと後にトラブルになりやすい。

就業規則・給与計算との関係を整理する

賃金規程は就業規則の一部という位置づけが一般的だが、条文数が多くなる会社では、就業規則本体とは別冊として賃金規程を作成し、就業規則側に「賃金に関しては賃金規程による」と委任規定を置く形がよく用いられる。この場合も、賃金規程は就業規則の一部とみなされ、労働基準監督署への届出や周知義務の対象となる。

賃金規程と実際の給与計算ソフトの設定は必ず一致させる。規程を改定したのに給与計算側の設定を変更し忘れると、規程違反の賃金支払いが発生し、未払い賃金や労基署対応のリスクにつながる。改定時は人事担当者と給与計算担当者が同じタイミングで確認する運用にしておくと安全である。

作成・改定の手順

作成手順の目安は次のとおりである。(1) 現行の賃金決定・支払の実態を棚卸しする、(2) 労働基準法・最低賃金法などの法令要件と照らし合わせる、(3) 条文案を作成する、(4) 従業員代表または労働組合の意見を聴取する、(5) 就業規則本体とあわせて所轄労働基準監督署へ届け出る、(6) 従業員へ周知する。

意見聴取は、常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を作成・変更する際に労働基準法第90条で義務づけられている手続きである。意見書に反対意見が記載されていても、届出自体は受理される点は押さえておきたい。

賃金規程は一度作成して終わりではなく、最低賃金の改定、法定割増率の見直し、評価制度の変更などに合わせて定期的に見直す必要がある。改定のたびに変更点を従業員へ説明する場を設けると、不利益変更をめぐるトラブルの予防にもなる。

社会保険労務士に相談すべき場面

賃金規程の作成・改定は、労働基準法だけでなく最低賃金法、労働契約法(不利益変更に関する判例法理を含む)など複数の法令が関わる。特に、既存の賃金水準を引き下げる方向の改定は、労働契約法第9条・第10条の不利益変更の考え方に照らして慎重な検討が必要であり、社会保険労務士など専門家に相談したうえで進める方が安全である。

自社に人事の専門人材がいない中小企業では、ひな形をそのまま流用せず、自社の等級制度・評価制度・雇用形態(正社員、契約社員、パート・アルバイトなど)の実態に合わせて条文を調整する作業が欠かせない。オンボーディング時に新入社員へ賃金規程の要点を説明できるよう、平易な言葉での補足資料を用意しておくのも実務上有効である。

この記事のまとめ

  • 賃金規程は賃金の決定方法・計算方法・支払方法などを定めた社内規程で、常時10人以上の事業場では就業規則の一部として届出・周知が義務となる
  • 最低限、基本給の決定方法、諸手当、締切日・支払日、割増賃金の計算方法、昇給・賞与の基準を記載する
  • 賃金規程は求人票や労働条件通知書の根拠にもなり、内容の食い違いは内定辞退やトラブルの原因になる
  • 作成・改定時は従業員代表の意見聴取と労働基準監督署への届出、従業員への周知が必要
  • 賃金を引き下げる改定は不利益変更に該当しうるため、社会保険労務士への相談を含め慎重に進める

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よくある質問

賃金規程と就業規則は別々に作る必要がありますか。

必須ではない。就業規則の中に賃金に関する条文をまとめて記載する会社も多い。ただし条文数が多くなる場合は、就業規則本体とは別冊で賃金規程を作成し、就業規則側に委任規定を置く形が一般的である。いずれの形でも、常時10人以上の労働者を使用する事業場では労働基準監督署への届出・周知義務の対象となる。

従業員数が10人未満でも賃金規程は作成すべきですか。

法律上の作成・届出義務は常時10人以上の事業場が対象だが、10人未満でも賃金の決め方を文書化しておくと、昇給・賞与の説明や採用時の条件提示が一貫しやすくなる。将来の増員や助成金申請の要件になる場合もあるため、早めの整備を検討する価値はある。

賃金規程を改定して賃金を引き下げることはできますか。

就業規則の変更手続きを経れば規程上は改定できるが、既存従業員の賃金を実質的に引き下げる内容は労働契約法上の不利益変更に該当し、変更の必要性や合理性、経過措置の有無などが問われる場合がある。個別の同意取得や社会保険労務士への相談を含め、慎重な進め方が求められる。

試用期間中の給与を本採用時より低くしてもよいですか。

一般に可能とされているが、募集時・内定時・労働条件通知書のいずれにも試用期間中の賃金条件を明示しておく必要がある。明示がないまま本採用時より低い賃金を支払うと、内定辞退やトラブルの原因になりやすい。

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