未払い残業代を請求されたら|企業側の対応と予防策
2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます
未払い残業代の請求書が届いた企業向けに、無視せず事実確認から交渉・支払いまでの対応手順と、時効・計算根拠の確認ポイント、再発防止のための勤怠管理と求人段階からの予防策を解説します。
未払い残業代を請求されたら最初にすべきこと
従業員や退職者本人、あるいは労働基準監督署や弁護士から未払い残業代の請求書・内容証明が届いたら、まず感情的に否定したり無視したりしないことが重要です。無視や放置は交渉の余地を狭め、後の訴訟や労働審判で企業側に不利に働く場合があります。
最初にやるべきは事実確認です。請求対象期間の勤怠記録、賃金台帳、給与明細、雇用契約書、就業規則(賃金規程)を揃え、実際の労働時間と支払済みの賃金・残業代を突き合わせます。この時点で社内の感覚だけで「払っていないはずがない」と判断せず、記録に基づいて確認することが後の対応の土台になります。
請求内容を精査する:時効・計算根拠・証拠の確認
未払い賃金(残業代を含む)の消滅時効は、2020年4月の民法改正に伴う労働基準法改正により、原則として賃金支払期日から3年(当面の間の経過措置。将来的に5年へ移行予定)とされています。請求対象期間がこの時効を超えていないか、まず確認します。
次に、請求されている残業代の計算根拠を確認します。基礎となる時給単価(基礎賃金)の算定に、通勤手当や家族手当など本来除外すべき手当が含まれていないか、割増率(法定内・時間外25%以上、深夜25%以上、法定休日35%以上、月60時間超は原則50%以上)が正しく適用されているかを精査します。従業員側の主張する労働時間が、タイムカードや入退室記録など客観的な証拠と一致しているかどうかも重要な確認点です。
社内での対応体制と初動の記録
経営者一人で抱え込まず、社会保険労務士や弁護士など専門家に早期に相談することを検討してください。特に金額が大きい場合や複数名からの請求、労働基準監督署が絡む場合は、初動から専門家を交えることで対応の精度が上がります。
対応の過程は必ず記録に残します。誰がいつ何を確認し、どのような判断をしたかを時系列でメモしておくと、後日の説明や交渉、万一の労働審判・訴訟で経緯を正確に説明する材料になります。従業員本人との連絡は、口頭だけでなくメールや書面でも記録が残る形を意識してください。
交渉・解決に向けた進め方
社内確認の結果、未払いの事実が認められる場合は、争わずに支払う方向で速やかに対応することが、労使関係の悪化や訴訟リスク・追加の遅延損害金の発生を防ぐ観点から現実的な選択肢になることが多いです。分割払いなど支払い方法について本人と話し合う余地がある場合もあります。
一方、計算根拠や労働時間の認定に食い違いがある場合は、根拠を示しながら丁寧に説明し、合意できる金額を探ります。感情的な対立に発展させず、書面での合意(合意書・清算書)を交わして支払い内容と対象期間を明確にしておくと、後日の蒸し返しを防ぎやすくなります。労働基準監督署から是正勧告を受けた場合は、指定された期限内に是正報告書を提出する必要があります。
再発防止のための勤怠・労務管理の見直し
一度請求が発生した以上、同じ問題が他の従業員にも潜んでいる可能性があります。全従業員分の勤怠記録と残業代計算を横断的に点検し、未払いが疑われるケースがあれば早期に自主的に是正することが、監督署対応や訴訟リスクの拡大を防ぐうえで有効です。
再発防止の柱は、客観的な労働時間管理の徹底です。自己申告制のみに頼らず、タイムカードやICカード、PCログなど客観的記録による勤怠管理に切り替えることが望まれます。あわせて、固定残業代(みなし残業)を採用している場合は、雇用契約書や求人票に固定残業時間・金額と超過分の追加支給ルールを明記し、実態と乖離がないか定期的に確認してください。36協定の締結・届出状況や、管理監督者の範囲が実態と合っているか(名ばかり管理職の問題)も併せて見直す機会にすべきです。
採用・求人段階からできる予防策
未払い残業代トラブルは、入社時点での労働条件の説明不足や、求人票と実際の労働条件のズレから生じることも少なくありません。求人票・募集要項の段階で、固定残業代の有無と内訳、想定される残業時間、割増賃金の支給条件を明確に記載し、母集団形成の段階から誤解のない情報発信を心がけることが予防につながります。
内定後の労働条件通知書や雇用契約書でも、賃金の内訳と残業代の計算方法を具体的に示し、試用期間中も含めて同じ基準で運用します。オンボーディングの過程で新入社員に勤怠管理の方法(打刻ルールや残業申請の手順)を丁寧に説明しておくことも、後の記録の食い違いを防ぐ実務的な対策です。
この記事のまとめ
- 請求を受けたら無視せず、勤怠記録・賃金台帳・雇用契約書で事実関係をまず確認する
- 消滅時効(原則3年)と割増賃金の計算根拠(基礎賃金・割増率)を精査する
- 未払いが事実なら早期に支払い、書面で合意内容を残して蒸し返しを防ぐ
- 全従業員の勤怠・残業代計算を横断点検し、客観的な労働時間管理に切り替える
- 求人票・雇用契約書の段階で固定残業代や労働条件を明確にし、トラブルを未然に防ぐ