休職制度の作り方|私傷病休職の期間と就業規則の規定例
2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます
休職制度、特に私傷病休職は法律上の義務ではなく、就業規則で自由に設計できる制度です。本記事では休職期間の決め方、就業規則の規定例、休職中の給与や社会保険の扱い、復職判定の進め方まで、中小企業が実務で使える形で解説します。
休職制度とは何か|私傷病休職の位置づけ
休職制度とは、労働者が労働契約を維持したまま一定期間労務の提供を免除される仕組みである。私傷病休職はそのうち最も利用頻度が高い類型で、業務外のケガや病気により働けなくなった従業員に対し、即座に解雇するのではなく治療と復職の機会を与えるために設けられる。
私傷病休職には、本来であれば債務不履行(労務提供不能)を理由に解雇できる状態を一定期間猶予するという法的性質がある。企業側にとっては、採用と教育に投資した人材を安易に手放さず、復職による戦力化を図るための制度でもある。
就業規則で定める前に整理すべきこと
私傷病休職は労働基準法に直接の規定がなく、法律上必ず設けなければならない制度ではない。設けるかどうか、対象者の範囲、休職期間、休職中の待遇は、いずれも会社が就業規則で自由に設計できる事項である。
ただし、就業規則に休職に関する定めがない状態で従業員が長期療養に入ると、解雇と休職のどちらで対応するかの判断基準がなく、対応が場当たり的になりトラブルの原因になりやすい。従業員数が常時10人以上の事業場は就業規則の作成・届出義務があるため、休職規定は労働条件通知や採用選考で候補者に説明する際の判断材料にもなる。
母集団形成の段階で福利厚生を訴求する企業も増えているが、休職制度は入社後のトラブル防止という守りの役割が中心である点を押さえておきたい。
休職期間の決め方|勤続年数別の目安
休職期間の長さに法律上の基準はなく、企業の体力や業種、人員体制に応じて設計する。中小企業では、勤続年数に応じて段階を設ける例が一般に見られる。例えば「勤続1年未満は休職制度の対象外」「勤続1年以上3年未満は3か月」「勤続3年以上は6か月」といった区切り方である。
勤続年数の短い試用期間中の社員については、休職制度の対象から除外し、私傷病が続く場合は本採用の可否判断や契約期間満了で対応する会社が多い。休職期間を通算するか、同一傷病での再発時に期間をリセットするかも、就業規則に明記しておく必要がある事項である。
休職期間満了時になお復職できない場合の取り扱い(自然退職とするか解雇とするか)は、規定上最も紛争になりやすい部分である。自然退職とする規定にしておくと、解雇予告や解雇理由証明書などの解雇手続を経ずに契約が終了するため、実務上はこの方式を採用する企業が多い。
就業規則の規定例
条文の一例を示す。「第◯条(休職) 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、休職を命じることがある。①業務外の傷病により欠勤が引き続き◯日を超え、なお療養を要すると認められるとき ②その他会社が休職を必要と認めたとき」といった形で休職事由を定める。
休職期間については「休職期間は勤続年数に応じ、会社が別に定める期間とする。ただし、休職期間中に休職事由が消滅したときは復職を命じ、休職期間を満了してもなお休職事由が消滅しないときは、休職期間満了の日をもって自然退職とする」のように、開始・終了の両方の扱いを明記する。
このほか、休職を命じる際の診断書提出義務、休職期間中の会社への連絡義務、復職時の産業医面談・診断書提出義務についても条文化しておくと、運用時の主張の根拠になる。規定はひな形をそのまま使うのではなく、自社の勤務体系や人員規模に合わせて社会保険労務士に確認しながら整えることが望ましい。
休職中の給与・社会保険の扱い
休職中の給与は無給とする企業が一般的である。ノーワーク・ノーペイの原則に沿った扱いであり、就業規則にも「休職期間中は無給とする」旨を明記しておくと、後日の認識違いを防げる。
無給であっても健康保険料・厚生年金保険料等の社会保険料は発生し続けるため、会社負担分に加え本人負担分の徴収方法(給与のない期間にどう天引き・振込してもらうか)を事前に決めておく必要がある。従業員本人には、健康保険の傷病手当金(業務外の病気やケガで働けず給与が支払われない場合に、一定の条件のもとで支給される制度で、同一傷病では通算して最長1年6か月支給される)の申請方法を案内すると、生活面の不安を軽減できる。
休職中も従業員であることに変わりはないため、定期的な連絡窓口を一本化し、プライバシーに配慮しつつ状況確認を行う体制を規定または運用ルールとして定めておくとよい。
復職判定のプロセスと復職後のフォロー
復職の可否は、主治医の診断書のみで即断せず、産業医(選任義務のある50人以上の事業場だけでなく、外部委託で確保する中小企業も増えている)の意見を踏まえて会社が最終判断する形にしておくと、判断の客観性を確保しやすい。主治医は「復職可能」と診断していても、実際の業務内容に耐えられるかは別の観点での確認が必要になる場合がある。
精神疾患等からの復職では、いきなりフル勤務に戻すのではなく、短時間勤務や試し出勤(リハビリ出勤)の制度を設け、段階的に元の勤務形態へ戻す設計をする企業もある。試し出勤の位置づけ(労働時間として扱うか否か、賃金の有無)は労使トラブルになりやすいため、あらかじめ就業規則や個別の合意書で明確にしておく。
復職後は、一定期間内に同一または類似の傷病で再度休務に至った場合の取り扱い(休職期間の通算)も定めておくと、再発時の対応がぶれない。復職後のオンボーディングに近い形で、上長との定期面談や業務量調整の期間を設けると、再休職の防止につながりやすい。
休職制度導入時の注意点
休職制度は一度規定を作れば終わりではなく、実際の運用で従業員ごとの事情に個別対応する場面が多い制度である。診断書の様式、休職・復職の意思確認の書面化、連絡記録の保存など、後から経緯を説明できる形で記録を残しておくことが、万一の紛争時に会社を守ることにつながる。
休職期間や自然退職の規定は解雇に準じる重みを持つ判断に関わるため、条文の作成・改定時は社会保険労務士や弁護士など専門家の確認を受けることを推奨する。既存の就業規則に休職規定がない、または長年見直していない場合は、この機会に自社の実情(離職率、休職の発生実績、業種特性)に合わせて点検すると良い。
この記事のまとめ
- 私傷病休職は労基法上の義務ではなく、就業規則で任意に設計する制度であり、対象範囲・期間・待遇は自社の実情に合わせて決められる
- 休職期間は勤続年数に応じて段階を設ける例が一般的で、試用期間中の社員は対象外とする企業が多い
- 休職期間満了時に復職できない場合の扱い(自然退職とするか等)を条文に明記しておくことが紛争防止の鍵になる
- 休職中は無給とし、社会保険料の本人負担分の徴収方法や傷病手当金の案内をあらかじめ決めておく
- 復職判定は主治医の診断書だけでなく産業医の意見も踏まえ、必要に応じて試し出勤など段階的な復職プロセスを設ける