カウンターオファー(現職の引き止め)への企業側の対策
2026年8月31日 公開 ・ 約6分で読めます
内定者が現職から引き止め(カウンターオファー)を受けて辞退するケースは珍しくありません。本記事では、内定通知から入社までの各段階で企業がとれる具体的な対策と、辞退の兆候への対応方法を解説します。
カウンターオファーとは何か、なぜ内定辞退につながるのか
カウンターオファーとは、退職の意思を伝えた社員に対し、現職の企業が引き止めのために提示する条件のことです。昇給、役職の変更、希望部署への異動などが典型例で、退職交渉の場面で口頭で示されることが多く、書面化されないケースも少なくありません。
内定者は自社への入社意欲があっても、現職から待遇改善を提示されると心が揺れます。特に「辞めると言って初めて評価される」ことへの心理的な効果は大きく、待遇面だけでなく「引き止められた=必要とされている」という感情的な要素が辞退の引き金になる場合があります。
中小企業の採用担当者にとって重要なのは、カウンターオファー自体を防ぐことはできない前提に立ち、内定から入社までの期間にどれだけ自社への意思を固めてもらえるかという設計です。
内定通知前から始める対策:口頭内諾と退職交渉のタイミング調整
カウンターオファー対策は内定通知後に慌てて始めるのではなく、選考後半から準備を始めることが有効です。最終面接後、正式な内定通知の前に口頭で内諾の意思を確認し、その時点で現職への退職意思表示のタイミングについてすり合わせておくと、退職交渉の見通しが立てやすくなります。
退職交渉は時間がかかるほど引き止め工作を受けやすくなる傾向があります。退職の意思表示から実際の退職までの期間が長引かないよう、就業規則上の退職予告期間(多くは1〜2ヶ月程度に設定されている企業が一般的ですが、民法上は原則2週間前の申し出で足りる場合があります)を候補者と共有し、早めに退職交渉に着手するよう促すことが実務上のポイントです。
ただし退職交渉のタイミングは候補者自身の判断領域であり、企業側が過度に急かすと不信感につながる場合があるため、あくまで情報提供と後押しにとどめる姿勢が望まれます。
内定通知後にすべきこと:入社意欲を固定化するフォロー設計
内定通知から入社日までの期間は、内定者の気持ちが最も揺れやすい時期です。この間、内定者フォローとして定期的な連絡を絶やさないことが、カウンターオファーへの耐性を高める最も基本的な対策になります。月1回程度の面談や、配属予定部署の社員との顔合わせ、社内報や社内イベントへの招待などを通じて、内定者が「すでにこの会社の一員である」という感覚を持てるようにすることが効果的です。
内定者の不安や質問に個別に答える機会を設け、入社後のキャリアパスや評価制度、オンボーディングの具体的な内容を早い段階で共有しておくと、現職からの引き止めに対して「なぜ転職を決めたのか」という初心を思い出しやすくなります。
内定者との接点が採用担当者一人に偏っていると、担当者が不在の際に不安が放置されるリスクがあるため、配属先の上長やメンバーも含めた複数のタッチポイントを用意しておくことも重要です。
内定辞退の兆候を見逃さないための観察ポイント
内定者からの連絡頻度が急に減る、面談の日程調整が消極的になる、入社準備(雇用契約書の返送や必要書類の提出)が遅れるといった変化は、カウンターオファーを検討しているサインである場合があります。こうした兆候を察知した段階で、早めに個別面談の機会を設け、率直に状況を確認することが望ましい対応です。
面談では「他社からの提示内容を教えてほしい」と詰め寄るのではなく、「入社にあたって不安なことはないか」「現職とのやり取りで気になっていることはあるか」といったオープンな質問から入り、内定者が話しやすい雰囲気をつくることが重要です。
兆候への対応が遅れるほど、内定者の中で現職に残る決断が固まってしまうため、違和感を覚えた時点でスピード感を持って動くことが辞退防止の鍵になります。
条件面で対抗しない:中小企業が採るべき現実的な対応方針
中小企業の場合、大企業のカウンターオファーに給与面だけで対抗するのは現実的でないことが多いです。無理に条件を引き上げて引き止め合戦に応じると、他の社員との給与バランスを崩す、あるいは自社の採用予算を圧迫するといった副作用を招きかねません。
条件面よりも、入社後に得られる裁量、成長機会、経営者や現場との距離の近さ、意思決定のスピードなど、中小企業ならではの魅力を改めて言語化して伝えることが現実的な打ち手です。募集時点でこれらの魅力を明確に打ち出し、母集団形成の段階から「条件だけで選んでいない人材」を集めておくことも、長期的なカウンターオファー対策になります。
どうしても給与面での調整が必要な場合は、一時的な引き上げではなく、評価制度や昇給ルールに基づいた説明可能な範囲で対応し、他の社員への説明責任を果たせる形にとどめることが望まれます。
内定者・現場・経営者の連携体制を整える
内定者フォローは採用担当者だけでなく、配属予定の現場責任者や経営者を巻き込んで行うと効果が高まります。経営者自らが内定者に直接連絡を取り、期待を伝える機会を設けることは、特に中小企業においては大企業にはない強みとして働きます。
内定辞退の兆候が見られた際に、誰がどのタイミングでフォローに入るかをあらかじめ社内で決めておくと、担当者の判断が遅れて対応が後手に回ることを防げます。採用担当者・現場責任者・経営者の三者で情報を共有できる簡易な連絡フローを用意しておくと、属人化を避けられます。
辞退が発生した場合の振り返りと次回への活かし方
カウンターオファーによる辞退が発生した場合は、その時点での状況を放置せず、どの段階でフォローが不足していたか、内定者がどのタイミングで気持ちが変化したかを振り返ることが次回以降の対策強化につながります。可能であれば辞退者本人に率直な理由を尋ね、記録として残しておくと、募集要項やフォロー体制の改善材料になります。
1件の辞退を「たまたま」で終わらせず、内定通知から入社までのフォロー設計そのものを継続的に見直す姿勢が、カウンターオファーへの根本的な備えになります。
この記事のまとめ
- カウンターオファーは条件面の引き止めだけでなく「必要とされている」という感情面が辞退の引き金になる場合があるため、条件対抗だけでなく感情面へのフォローが重要
- 内定通知後は定期的な連絡や社員との接点づくりを通じて、内定者が入社を前提とした感覚を持てるよう継続的にフォローする
- 連絡頻度の低下や書類提出の遅延など辞退の兆候を早期に察知し、スピード感を持って個別面談で状況を確認する
- 中小企業は給与での対抗よりも、裁量・成長機会・経営者との距離の近さなど自社ならではの魅力を言語化して伝える
- 辞退が発生した場合は理由を記録し、募集要項やフォロー体制の改善に継続的に活かす