事業場外みなし労働時間制とは|適用条件と注意点
2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます
事業場外みなし労働時間制は、外勤で実労働時間を把握しにくい社員に一定時間の労働をみなす制度である。適用条件、在宅勤務への当てはめ、割増賃金など免除されない義務、導入手順と裁判例の注意点を整理する。
事業場外みなし労働時間制とは何か
事業場外みなし労働時間制は、労働基準法38条の2に基づく制度で、労働者が事業場の外で業務に従事し、かつ使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定しにくい場合に、実際の労働時間にかかわらず一定時間を働いたものとみなす仕組みである。営業職や記者、在宅勤務者など、勤務場所や行動を逐一管理できない働き方を想定した制度である。
みなす時間は、原則として就業規則等に定める所定労働時間である。ただし、その業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合は、業務の遂行に通常必要とされる時間を労使協定または就業規則で定めることができる。この時間が法定労働時間を超える場合は、労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出る必要がある。
適用できる条件と適用できないケース
適用の中心的な要件は「労働時間を算定し難いとき」に該当することである。単に外勤であるというだけでは足りず、使用者が労働者の勤務状況を具体的に把握・管理できない実態が必要になる。
厚生労働省の通達では、次のいずれかに該当する場合は原則として適用されないとされている。(1)何人かのグループで事業場外労働に従事し、その中に労働時間を管理する者がいる場合、(2)無線やポケベル、携帯電話等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合、(3)事業場において訪問先、業務内容等の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務を行い、その後事業場に戻る場合。
近年はスマートフォンの位置情報や業務管理アプリで移動・訪問状況を常時把握できる会社も多く、労働時間を算定できると判断されれば制度は適用されない。適用の可否は労働時間管理の実態で個別に判断されるため、営業職だから当然に使えるという発想は避けたい。
在宅勤務(テレワーク)への適用条件
在宅勤務においても、一定の要件を満たせば事業場外みなし労働時間制を適用できるとされている。厚生労働省のテレワークガイドラインでは、(1)情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、(2)随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと、の2点を満たす場合に「労働時間を算定し難いとき」に該当し得るとしている。
実務上は、始業・終業時のチャット報告のみを求め、勤務時間中の常時オンライン待機やPCログの常時監視を求めない運用であれば適用余地が残る。逆に、常時ビデオ通話をつなぐ、離席のたびに報告を義務付けるといった運用は、労働時間を算定できる状態とみなされやすく、制度の趣旨に合わない。
制度を導入しても免除されないもの
事業場外みなし労働時間制は、あくまで「労働した時間数」のみなしであり、労働時間そのものの管理義務を免除するものではない。休憩、休日、深夜労働(22時〜5時)の割増賃金、休日労働の割増賃金は通常どおり適用される。深夜や休日に業務を行った事実があれば、みなし労働時間制の対象者であっても割増賃金の支払いが必要になる。
みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合は、時間外労働として36協定の締結・届出と割増賃金の支払いが必要である。「みなし=残業代ゼロ」という誤解が中小企業でも根強いが、みなし時間の設定自体が適正な労働時間評価であることが前提であり、実態と乖離した短い時間を設定すると未払い残業のリスクが残る。
導入の実務手順と社内規程の整え方
導入する際は、まず対象業務が「労働時間を算定し難い」実態に本当に該当するかを洗い出す。訪問件数や行動が会社側で逐一把握できる業務は対象から外し、真に裁量的な外勤業務に限定するのが安全である。
次に就業規則に事業場外みなし労働時間制の適用対象・みなし時間を明記し、所定労働時間を超えるみなし時間を設定する場合は労使協定を締結して労働基準監督署へ届け出る。あわせて健康管理の観点から、勤怠システムやオンライン打刻等で始業・終業時刻や在社状況を記録し、長時間労働の兆候を把握できる体制を残しておくことが望ましい。
採用面接や求人票で「みなし労働時間制」を説明する際は、みなし時間の長さと、時間外・休日・深夜の扱いを具体的に伝えることで、入社後の認識齟齬や早期の内定辞退・離職を防ぎやすくなる。
裁判例・トラブル事例から見る注意点
阪急トラベルサポート事件(最高裁平成26年1月24日判決)では、添乗員の業務についてツアー日程が具体的に確定しており、携帯電話で随時報告を求める体制もあったことなどから、労働時間を算定し難いとは言えないと判断され、みなし労働時間制の適用が否定された。行程管理の具体性と報告体制の有無が判断の分かれ目になった代表例である。
中小企業の実務では、制度導入時は要件を満たしていても、営業支援ツールの導入や日報の詳細化によって後から「労働時間を算定できる状態」に変化してしまうことがある。定期的に運用実態を見直し、適用要件から外れていないかを確認する運用が欠かせない。
この記事のまとめ
- 事業場外みなし労働時間制は「労働時間を算定し難いとき」に限り適用でき、外勤というだけでは要件を満たさない
- 位置情報アプリや随時の指示・報告体制がある場合は労働時間を算定できるとみなされ、適用が否定されやすい
- みなし労働時間制でも深夜・休日労働の割増賃金や36協定の対象からは外れない
- 在宅勤務にも適用余地はあるが、常時通信可能な状態や随時の具体的指示がないことが条件になる
- 導入後も業務管理ツールの導入等で実態が変化し得るため、定期的に適用要件を見直す必要がある