身元保証書は必要?賠償の上限と民法改正のポイント
2026年8月31日 公開 ・ 約6分で読めます
身元保証書は必須の書類ではないものの、金銭や情報を扱う業務では損害賠償リスクに備える手段として広く使われている。本記事では提出の必要性、身元保証法の規律、そして2020年の民法改正で必須となった「極度額」への対応方法を、中小企業の実務目線で解説する。
身元保証書とは何か——就業規則や雇用契約書との違い
身元保証書とは、従業員が入社時に会社へ提出する書類の一つで、従業員本人が会社に損害を与えた場合に、保証人が一定の範囲で賠償責任を負うことを約する契約書である。雇用契約書や労働条件通知書とは別物であり、労働契約そのものを構成するものではない。
法律上、身元保証書の提出は入社の必須要件ではない。ただし、現金や商品を扱う業務、個人情報や機密情報に触れる業務、車両運転を伴う業務などでは、リスク管理の一環として提出を求める中小企業が多い。母集団形成の段階から提出書類として明示しておくと、内定後のトラブルを避けやすい。
身元保証書の主な記載項目と実務上の書式
一般的な身元保証書には、被保証人(従業員)の氏名・住所、保証人の氏名・住所・続柄・押印、保証の対象となる期間、保証人が負う責任の限度額などを記載する。保証人は法律上、必ずしも親族である必要はないが、実務では両親や配偶者など、緊急連絡先を兼ねられる人物を求める企業が多い。
書式に法定の様式はなく、各社が独自の様式を用いてよい。ただし後述する身元保証ニ関スル法律(身元保証法)や民法の規律に反する内容は無効となる場合があるため、テンプレートを流用する際も条文との整合性を確認する必要がある。
身元保証法による保証人保護のルール
身元保証書に関しては、民法とは別に「身元保証ニ関スル法律」という特別法が存在し、保証人を保護する規定を置いている。保証期間の定めがない場合は成立から3年、期間を定める場合でも最長5年とされ、更新する場合も同様の上限が適用される。
また同法では、従業員に業務上不適任・不誠実な事跡があり保証人の責任が生じるおそれがあると会社が知った場合、会社は遅滞なく保証人にその旨を通知する義務を負う。この通知を怠ると、裁判で保証人の責任が減免される要因になり得る。実務では、懲戒事由が発生した時点で速やかに保証人へ連絡する運用を定めておくことが望ましい。
民法改正で追加された「極度額」のルール
2020年4月施行の改正民法により、個人が保証人となる根保証契約には「極度額(賠償の上限額)」を書面で定めることが必須となった。身元保証契約は将来発生するかどうか分からない損害を包括的に保証する性質を持つため、この根保証の規律が及び、極度額の定めがない身元保証契約は無効となる。
極度額は「金〇〇万円を上限とする」のように具体的な金額で明記する必要があり、「相当額」「常識の範囲内」といった曖昧な表現では要件を満たさない。2020年4月以降に締結・更新した身元保証書に極度額の記載がない場合、保証契約自体が無効と判断されるリスクがあるため、既存の様式を使い続けている企業は早急に見直すべきである。
極度額はいくらに設定すべきか——実務上の考え方
法律上、極度額の金額に明確な基準はなく、会社と保証人の合意によって決める。もっとも、著しく高額な設定は保証人の負担が過大となり、後日の紛争や保証人確保の困難につながる場合がある。取り扱う金銭・商品の規模や、想定される損害の類型(横領、備品破損、情報漏えいなど)を踏まえ、現実的な範囲で設定するのが一般的である。
中小企業の実務では、月給の数か月分から数百万円程度のレンジで設定する例が見られるが、これはあくまで一つの目安であり、業種・職種・取り扱う資産規模によって適切な水準は異なる。極度額の設定に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士など専門家に相談し、自社の業務実態に即した金額を検討することをおすすめする。
導入・運用のチェックリスト
身元保証書を運用する際は、①極度額を具体的な金額で明記しているか、②保証期間(最長5年)を超えていないか、③懲戒事由発生時に保証人へ通知する社内フローがあるか、④保証人の押印・本人確認を適切に行っているか、⑤試用期間中の提出タイミングを就業規則や雇用契約書上で明確にしているか、を確認する。
また、身元保証書はオンボーディングの初期段階で説明し、提出目的(会社を守るためであり、従業員を疑う趣旨ではないこと)を丁寧に伝えることで、入社者の不安や内定辞退のリスクを抑えられる場合がある。提出を拒否された場合の対応方針も、あらかじめ社内で決めておくと現場が混乱しにくい。
この記事のまとめ
- 身元保証書の提出は法律上の義務ではないが、現金・情報・車両運転など損害リスクのある業務では提出を求める企業が多い
- 2020年4月施行の改正民法により、身元保証書には具体的な金額の「極度額」を明記しなければ契約自体が無効となる
- 身元保証法により保証期間は最長5年(定めがなければ3年)で、懲戒事由発生時には会社に保証人への通知義務がある
- 極度額の水準に法定基準はなく、業務実態に応じて会社と保証人が合意して設定する
- 古い様式を使い続けている場合は、極度額の記載有無を早急に見直す必要がある