パート・アルバイトの社会保険加入|106万円・130万円の壁
2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます
パート・アルバイトの社会保険加入は「106万円の壁」と「130万円の壁」という2つの基準が絡み合い、担当者でも判断に迷いやすい。本記事では加入対象となる条件、2024年10月からの制度変更、採用・労務の現場で必要な実務対応を整理する。
106万円の壁とは何か|2024年10月からの新基準
従来「130万円の壁」が社会保険加入の分岐点として知られてきたが、2016年以降、一定規模以上の企業には「106万円の壁」という別基準が適用されている。これは年収基準というより、賃金月額8.8万円(年収換算約106万円)以上などの条件を満たすパート・アルバイトを、企業規模にかかわらず厚生年金・健康保険の加入対象とする仕組みである。2024年10月からは、この基準が適用される企業の従業員数要件が「101人以上」から「51人以上」に拡大され、対象となる中小企業が大きく増えた。
自社が51人以上の企業(厚生年金保険の被保険者数でカウント)に該当するかどうかは、社会保険加入義務の有無を左右する重要な分岐点になる。従業員数の数え方や加入対象者の洗い出しは、日本年金機構や顧問社労士に確認しておくことが望ましい。
加入対象になる4つの条件
従業員数51人以上の企業(特定適用事業所)で働く短時間労働者は、次の条件をすべて満たすと社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象となる。①週の所定労働時間が20時間以上、②賃金月額が8.8万円以上(残業代・賞与・通勤手当等は原則含まない)、③2か月を超える雇用見込みがある、④学生でないこと(休学中や夜間学生等は例外あり)。
この4条件は「見込み」で判定されるため、実際に働き始める前の労働契約の内容(所定労働時間、基本給の設定)で加入の要否が決まる点に注意したい。契約更新のタイミングで労働時間や賃金を変更する場合は、そのつど加入要件への該当性を確認する必要がある。
130万円の壁との違いと使い分け
130万円の壁は、配偶者の社会保険の扶養に入れるかどうかの基準であり、年収が130万円未満(かつ配偶者の年収の2分の1未満等の要件)であれば、被扶養者として保険料負担なしで健康保険・年金の給付を受けられる。一方106万円の壁は、本人が勤務先の社会保険に加入し、自ら保険料を負担する基準である。
51人以上の企業に勤める短時間労働者は、130万円未満であっても106万円の壁の4条件に該当すれば社会保険への加入が優先される。逆に51人未満の企業(特定適用事業所に該当しない事業所)で働く場合は、106万円の壁は適用されず、130万円の壁のみが扶養の目安となる。自社の規模によって、パート・アルバイトへの説明内容が変わる点を押さえておきたい。
採用担当者が面接・条件提示で伝えるべきこと
求人票や面接での労働条件提示の段階で、募集するシフトの所定労働時間と時給から想定される月収を示し、社会保険加入の見込みがあるかどうかを候補者に伝えておくと、入社後のトラブルを避けやすい。特に「扶養内で働きたい」という希望を持つ候補者には、106万円の壁の対象になる可能性を早めに説明することが求められる。
社会保険加入は本人にとって手取り収入の減少につながる一方、将来の年金額増加や傷病手当金・出産手当金の受給資格獲得といったメリットもある。メリット・デメリットの両面を採用面談やオンボーディング時に説明できるよう、担当者向けのトークスクリプトや説明資料を用意しておくと実務がスムーズになる。
労務管理側の実務対応|就業規則・シフト設計への影響
従業員数が51人以上に近い企業では、増員や契約変更によって特定適用事業所に該当する・しないが変わる可能性がある。人事担当者は定期的に厚生年金保険の被保険者数を確認し、該当が見込まれる場合は早めに社会保険料の会社負担分を含めた人件費シミュレーションを行っておくことが望ましい。
また、既存のパート・アルバイトの中に加入条件のボーダーライン付近(週19〜21時間、月収8.5万〜9万円程度)で働く人がいる場合、シフト設計や時給改定のたびに加入要件を満たすかどうかが変動しうる。就業規則や雇用契約書の労働時間・賃金の定め方を明確にし、給与計算担当と連携して該当者を継続的にチェックする体制を整えておくと、加入手続きの漏れや遅延を防ぎやすい。
なお、2025年以降も制度見直しの議論が続いており、賃金要件の撤廃など将来的な制度変更が検討されている場合がある。最新の制度内容は厚生労働省や日本年金機構の公表情報で随時確認することが必要である。
手続きの流れと社労士連携のポイント
新たに加入対象者が生じた場合、事業主は「被保険者資格取得届」を年金事務所に提出する必要がある。届出は事実発生から5日以内が原則とされており、対象者の把握から届出までのリードタイムを短縮できるよう、採用時・契約更新時のチェックリストに社会保険加入判定の項目を組み込んでおくと運用が安定する。
従業員数の増減や制度改正の影響を正確に把握するには、顧問社労士との連携が有効である。特に複数事業所を持つ企業や、パート比率の高い業種(小売、飲食、介護等)では、加入判定の実務が煩雑になりやすいため、社労士に定期チェックを依頼する体制を検討したい。
この記事のまとめ
- 106万円の壁は従業員数51人以上の企業に勤める短時間労働者が対象で、130万円の壁(扶養基準)とは別の仕組みである
- 加入条件は週20時間以上・月収8.8万円以上・雇用見込み2か月超・非学生の4点で、契約内容の時点で判定される
- 自社が51人以上に該当するかどうかで、パート・アルバイトへの説明内容が変わるため、企業規模の確認が最初のステップになる
- 面接・条件提示の段階で加入見込みを伝え、手取り減少と将来給付のメリットを両面説明することで入社後のトラブルを防げる
- 契約更新やシフト変更のたびに加入要件の該当性が変わりうるため、チェックリスト化と社労士連携で漏れを防ぐ体制が実務上重要