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給与・待遇・評価制度の設計

固定残業代(みなし残業)の正しい設計|違法にならない注意点

2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます

固定残業代(みなし残業)は表記や運用を誤ると未払い残業代のトラブルや採用時のミスマッチにつながります。適法な設計の3条件、求人票・雇用契約書での正しい表記方法、超過分の精算体制まで、中小企業の経営者・採用担当者が実務ですぐ使えるポイントを整理します。

固定残業代とは何か、通常の残業代とどう違うか

固定残業代(みなし残業代)とは、あらかじめ一定時間分の時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金を、定額で毎月支払う仕組みである。実際の残業時間が想定時間より少なくても、契約で定めた定額分は支払う必要がある一方、想定時間を超えて働かせた場合は、その超過分の割増賃金を追加で支払わなければならない。

固定残業代は残業代の支払いを免除する制度ではなく、あくまで割増賃金の支払い方法の一つに過ぎない。この理解を欠いたまま導入すると、後述する未払い残業代のトラブルにつながりやすい。

適法に固定残業代を設計するための3つの条件

裁判例の積み重ねから、固定残業代が有効と認められるためには、一般に(1)通常の労働時間の賃金に相当する部分と割増賃金に相当する部分が明確に区分されていること(明確区分性)、(2)その割増賃金部分が何時間分の時間外労働等に対応するのか、就業規則や雇用契約書に具体的に定められていること、(3)実際の残業時間が固定残業代に含まれる時間数を超えた場合に、その差額を追加で支払う運用が実際になされていること、が求められる場合が多い。

基本給の中に残業代を含めて一括で支給するような設計や、「固定残業代を含む」とだけ記載して金額や時間数を示さない設計は、明確区分性を欠くとして無効と判断されるリスクがある。求人票や雇用契約書には、基本給の額、固定残業代の額、対応する時間外労働の時間数を分けて明記することが実務上の基本である。

求人票・雇用契約書での正しい表記方法

求人票では「基本給20万円(固定残業代3万円/時間外労働20時間分を含む)、超過分は別途支給」のように、基本給・固定残業代の金額・対応する時間数・超過分の追加支給の有無をワンセットで明記する。求人媒体によっては固定残業代の表記ルールが定められている場合があるため、掲載前に各媒体のガイドラインを確認するとよい。

雇用契約書や労働条件通知書にも同様の内容を記載し、就業規則(賃金規程)に固定残業代の計算方法と超過分の精算方法を定めておく。求人票の記載と契約書の記載、実際の給与明細の内容が食い違っていると、労働者との認識のズレやトラブルの原因になる。

固定残業時間の設定でよくある失敗と注意点

固定残業時間を長時間(例えば月45時間や60時間を超える水準)に設定すると、36協定の限度時間との整合性や、恒常的な長時間労働を前提とした運用として問題視される場合がある。固定残業時間はあくまで実態に即した水準にとどめ、過度に長い時間数を設定して残業代を抑制しようとする設計は避けるべきである。

また、固定残業代の金額を法定の割増率(時間外は原則2割5分以上、月60時間超の時間外は5割以上、深夜は2割5分以上、休日は3割5分以上)で計算した金額を下回らないよう、基礎となる時間単価の算定式を明確にしておく必要がある。昇給時には固定残業代の金額と対応時間数の整合性が崩れていないか、都度確認する運用が望ましい。

超過分の精算を確実に行う運用体制

固定残業代制度が有効と認められるための重要な条件の一つが、実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合に差額を確実に支払う運用である。勤怠管理を曖昧にしたまま固定残業代だけを支給していると、超過分の未払いが発覚した際にまとめて遡及請求される可能性がある。

毎月の給与計算の際に、勤怠システムやタイムカードの記録から実際の時間外労働時間を集計し、固定残業時間を超えた分の割増賃金を機械的に算出して支給する運用フローを整えておく。担当者が変わっても同じ処理ができるよう、計算式をマニュアル化しておくと属人化を防げる。

採用時のトラブルを防ぐための伝え方

固定残業代の仕組みは求職者にとって分かりにくく、面接や内定時の説明が不十分だと、入社後に「思っていた給与と違う」という不満や内定辞退、早期離職の一因になる場合がある。募集要項の段階で基本給と固定残業代を分けて提示し、面接でも「固定残業代は◯時間分の残業代を含んだ金額で、それを超えた分は別途支払う」という趣旨を口頭でも説明しておくと認識のズレを防ぎやすい。

オンボーディングの初期段階で給与明細の見方や固定残業代の考え方を改めて説明する機会を設けると、入社後の疑問や不信感を減らすことにつながる。母集団形成の段階から待遇を正確に伝えることは、結果的にミスマッチによる早期離職を減らす効果も期待できる。

既存の制度を見直す際のチェックポイント

すでに固定残業代制度を運用している企業は、就業規則・雇用契約書・求人票の記載が最新の状態と一致しているか、固定残業時間数が実態とかけ離れていないか、超過分の精算が毎月正しく行われているかを定期的に点検するとよい。制度の不備は在職者との紛争だけでなく、退職者からの遡及請求リスクにもつながる。

制度設計や表記に不安がある場合は、社会保険労務士など専門家に就業規則・雇用契約書の内容を確認してもらうことが望ましい。自己流の運用を続けるより、早い段階で専門家のチェックを入れる方が結果的にコストを抑えられる場合が多い。

この記事のまとめ

  • 固定残業代は残業代の支払い方法の一つであり、支払い免除の制度ではない
  • 有効性には明確区分性・対応時間数の明記・超過分の精算実施という3条件が求められる場合が多い
  • 求人票と雇用契約書には基本給・固定残業代額・対応時間数・超過分支給の有無を分けて記載する
  • 固定残業時間は実態に即した水準にとどめ、36協定との整合性を確認する
  • 採用面接やオンボーディングで制度の仕組みを丁寧に説明し、入社後のミスマッチを防ぐ

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よくある質問

固定残業代を導入すれば残業代を追加で払わなくてよいのですか。

いいえ。固定残業代はあらかじめ定めた時間数分の割増賃金を定額で支払う仕組みであり、実際の残業がその時間数を超えた場合は超過分の割増賃金を別途支払う必要があります。

固定残業時間は何時間まで設定してよいですか。

法律上の明確な上限があるわけではありませんが、36協定の限度時間との整合性や恒常的な長時間労働を前提とした設計にならないよう、実態に即した時間数にとどめるのが一般的な考え方です。過度に長い時間数の設定は無効と判断されるリスクがあります。

求人票にはどのように記載すればよいですか。

基本給の額、固定残業代の額、対応する時間外労働の時間数、超過分を別途支給する旨を分けて明記します。基本給に残業代を含めて一括表記する書き方は避けるべきです。

固定残業代の制度が無効と判断されるとどうなりますか。

固定残業代部分が基本給の一部とみなされ、その金額を基礎に改めて残業代を計算し直す必要が生じる場合があります。結果として過去にさかのぼった未払い残業代の請求につながるリスクがあります。

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