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給与・待遇・評価制度の設計

最低賃金が上がったときの対応|中小企業の給与見直し手順

2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます

最低賃金が改定されるたびに、点検や規程改定に追われる中小企業は多い。本記事では、対象者の洗い出しから時間当たり単価の計算方法、原資の考え方、36協定・就業規則への影響、従業員への説明まで、実務で使える見直し手順を順を追って解説する。

まず何を確認するか|適用される最低賃金額と対象者の洗い出し

最低賃金には都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」と、一部業種に適用される「特定最低賃金」がある。自社の事業所がどちらの適用を受けるかを厚生労働省または都道府県労働局の公表情報で確認することが最初の一歩である。地域別最低賃金は例年10月頃に改定されることが多いが、発効日は都道府県ごとに異なる場合があるため、必ず自社所在地の発効日を確認する。

次に、時給・日給・月給それぞれの従業員について、最低賃金額を下回っていないかを一人ずつ点検する。月給制の場合は、所定労働時間で割り戻した時間当たり単価で比較する必要があり、単純に月給の額面だけを見ても判断できない点に注意する。パート・アルバイトだけでなく、正社員の初任給や地域手当の設定次第では正社員も対象になり得る。

時間当たり単価の計算方法|月給制・日給制の落とし穴

最低賃金との比較に使う賃金には、原則として基本給と諸手当の一部が含まれるが、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、時間外労働の割増賃金、賞与などは比較の対象から除外される。この除外項目を含めたまま「額面は最低賃金を超えている」と誤認するケースは中小企業の実務で起こりやすいため、給与規程の手当構成を一つずつ確認する。

月給制の場合は、月給から比較対象外の手当を除いた額を、月平均所定労働時間で割って時間当たり単価を算出する。日給制も同様に、日給を1日の所定労働時間で割って比較する。この計算を怠り、額面の年間昇給だけで対応した気になっていると、実際には最低賃金を下回ったままになっている場合がある。

見直しの優先順位|最低賃金ラインの是正から始める

点検の結果、最低賃金を下回る従業員がいれば、発効日までに是正することが最優先である。最低賃金法違反には罰則規定があり、労働基準監督署の是正指導の対象にもなり得るため、後回しにできる論点ではない。

是正の次に検討すべきは、最低賃金付近で働いていた従業員と、その少し上の等級にいる従業員との賃金差が縮まる、いわゆる「賃金の圧縮」への対応である。最低賃金だけを引き上げると、経験年数や役割の違いが賃金に反映されなくなり、現場の納得感やモチベーション低下につながる場合がある。等級間の賃金差を一定程度確保する方針を、経営として先に決めておくと調整がしやすい。

原資の考え方|人件費増加を粗利改善とセットで検討する

最低賃金引き上げへの対応は、単なる支出増ではなく、経営全体の収支計画の中で位置づける必要がある。人件費増加分をどこまで価格転嫁できるか、業務効率化でどこまで工数削減できるかを合わせて検討し、賃上げ原資を確保する道筋を立てる。

業種によっては、最低賃金引き上げに伴う助成金や支援策が用意される場合がある。業務改善助成金など、生産性向上の設備投資と組み合わせて活用できる制度もあるため、対応時期に合わせて最新の公募情報を確認しておくとよい。ただし制度の詳細や要件は年度によって変わるため、必ず一次情報を確認したうえで判断する。

36協定・就業規則・給与規程への影響を点検する

時給を引き上げると、割増賃金の単価も連動して上がる。36協定で定めた時間外労働の上限そのものは変わらないが、残業代の総額が増えるため、シフト設計や所定労働時間の見直しと合わせて確認しておくとよい。

就業規則や給与規程に具体的な時給額を記載している場合は、規程の改定が必要になる。パート・アルバイトの雇用契約書に個別の時給を明記している場合も、契約更新のタイミングで書面を差し替える必要がある。改定内容は労働者への周知が求められるため、掲示や配布の方法もあらかじめ決めておく。

従業員への説明とオンボーディングへの反映

賃金改定は従業員の生活に直結するため、発効日より前に、対象者へ改定内容と適用時期を説明することが望ましい。特に等級間の賃金差が縮まった場合は、既存社員から不公平感の声が上がりやすいため、評価制度や昇給ルールとあわせて説明できるよう準備しておく。

新規採用の場面では、求人票に記載する時給が最低賃金を下回っていないかも同時に確認する。改定前に出した求人がそのまま掲載され続けていると、母集団形成の段階で誤った条件を提示してしまい、内定後や入社後のトラブルにつながりかねない。オンボーディング資料や労働条件通知書のひな形も、改定内容に合わせて更新する。

翌年以降に備える仕組み化

最低賃金は毎年見直される制度であるため、その都度手作業で点検するのではなく、点検のタイミングと手順をあらかじめ決めておくと運用負担が減る。改定発表後にチェックする従業員リスト、時間当たり単価の計算シート、規程改定のフローをテンプレート化しておくと、翌年以降の対応がスムーズになる。

また、最低賃金の引き上げ幅を見越して、日頃から賃金カーブや等級間の差を定期的に点検しておくと、急な改定にも慌てず対応しやすくなる。試用期間中の賃金設定も本採用後の賃金と合わせて点検し、法令違反のリスクを事前に減らしておくことが望ましい。

この記事のまとめ

  • 最低賃金の点検は月給制・日給制それぞれの時間当たり単価で行い、額面だけで判断しない
  • 是正の優先順位は最低賃金ラインの違反解消が最優先、次に等級間の賃金差の調整
  • 人件費増加分は価格転嫁・業務効率化・支援制度の活用と合わせて原資を検討する
  • 36協定・就業規則・雇用契約書・求人票への影響を同時に点検し、規程と現場の両方を更新する
  • 毎年の改定に備え、点検手順と規程改定フローをテンプレート化しておくと翌年以降の負担が減る

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よくある質問

最低賃金の対象になる賃金には何が含まれますか。

原則として基本給と一部の手当が対象になり、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、時間外労働の割増賃金、賞与などは比較の対象から除外される場合が一般的です。手当構成によって判断が分かれるため、自社の給与規程を個別に確認することをおすすめします。

正社員は最低賃金の対象外ですか。

対象外ではありません。雇用形態にかかわらず、時間当たり単価が最低賃金を下回っていないかを確認する必要があります。特に地方の初任給や地域手当が低い場合は、正社員でも最低賃金に近い水準になっていることがあります。

最低賃金を下回っていた場合、どう対応すればよいですか。

発効日までに是正し、給与規程や雇用契約書の時給額を改定します。是正が遅れると労働基準監督署の指導対象になり得るため、点検で判明した時点で速やかに対応することが重要です。

最低賃金引き上げに使える支援制度はありますか。

業務改善助成金など、生産性向上の設備投資と組み合わせて活用できる制度が用意される場合があります。制度の詳細や要件は年度により変わるため、対応時期に合わせて厚生労働省や都道府県の一次情報を確認してください。

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