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給与・待遇・評価制度の設計

退職金制度の作り方|中小企業の相場・積立方法・注意点

2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます

退職金制度は法律上の義務ではないが、採用や定着に影響する重要な待遇の一つである。本記事では、中小企業が退職金制度を設計する際の相場の調べ方、積立方法の選択肢、規程作成の手順、導入後の注意点までを実務の流れに沿って解説する。

退職金制度とは何か、中小企業が導入を検討する意味

退職金制度は、従業員が退職する際に会社が一定の金銭を支給する制度で、法律上の義務ではなく任意の福利厚生である。導入していない中小企業も珍しくないが、採用市場では応募者が待遇を比較する材料の一つになりやすく、母集団形成や内定辞退の抑制に一定の効果が期待できる。

退職金には勤続年数に応じて金額が増える『功労報奨的性格』と、老後資金を補う『生活保障的性格』の両面があるとされる。制度設計にあたっては、自社がどちらの性格を重視するかを最初に整理しておくと、後の支給基準や積立方法の選定がぶれにくくなる。

退職金の相場感をどう把握するか

退職金の金額は業種・企業規模・勤続年数によって幅が大きく、全国一律の『相場』を一つの数字で示すことは難しい。目安を知りたい場合は、厚生労働省の就労条件総合調査や中小企業退職金共済(中退共)が公表する資料など、公的な統計を確認したうえで自社の体力に合わせて設計するのが実務的である。

自社だけで水準を決めるのが難しい場合は、同業種・同規模の求人票に記載された退職金の有無や、社会保険労務士が持つ業界感覚を参考にする方法もある。いずれにしても、最初から高い水準を約束すると将来の減額が難しくなるため、支給できる範囲から始める姿勢が重要である。

退職金制度の設計手順

設計は、(1) 制度の目的整理、(2) 支給方式の選定(退職一時金・企業年金・その両方)、(3) 支給基準(勤続年数・退職事由・自己都合か会社都合かによる係数)の決定、(4) 積立方法の選定、(5) 退職金規程の作成、(6) 就業規則への反映と労働者代表への意見聴取、という順で進めると抜け漏れが少ない。

特に支給基準は、自己都合退職と会社都合退職で金額に差を設ける企業が多い。試用期間中や勤続年数が短い従業員を対象外とするかどうかも、早期離職対策とセットで検討しておくとよい。

積立方法の選択肢と特徴

代表的な積立方法として、中小企業向けの公的制度である中小企業退職金共済(中退共)、企業型確定拠出年金(企業型DC)、確定給付企業年金(DB)、生命保険や信託を活用した社内積立などがある。中退共は掛金の一部に国の助成があり、事務負担が比較的軽いことから中小企業での利用実績が多いとされる制度である。

企業型DCは掛金を会社が拠出し運用は従業員が行うため、将来の給付額が運用成績に左右される点が特徴である。一方、社内で引当金を積む方式は制度設計の自由度が高い反面、資金を計画的に確保できないと退職金の支払いに窮するリスクがあるため、資金繰りとセットで検討する必要がある。

退職金規程・就業規則への落とし込みと労使手続き

退職金を支給する場合、就業規則の相対的必要記載事項として、適用対象者、決定・計算・支払方法、支払時期を定める必要がある。常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成・届出義務があり、退職金制度を新設・変更する際は労働基準監督署への届出と、労働者代表からの意見聴取が必要になる。

規程には、支給対象となる勤続年数の下限、懲戒解雇時の減額・不支給規定、死亡退職時の取り扱いなどを具体的に記載しておくと、退職時のトラブルを避けやすい。作成後は全従業員がいつでも内容を確認できるよう周知することも忘れてはならない。

導入・運用時に注意すべき点

退職金制度は一度導入すると、労働条件の不利益変更にあたるため、後から水準を引き下げることは容易ではない。就業規則の不利益変更には合理性と労働者への周知が求められ、一方的な減額は無効と判断される場合があるため、導入前に長期的に支払い続けられる水準かどうかを慎重に見極める必要がある。

税務面では、退職金は所得税法上『退職所得』として扱われ、給与所得より優遇された控除(退職所得控除)が適用される。ただし控除額の計算や源泉徴収の実務は個別事情によって変わるため、具体的な税額計算は税理士に確認することが望ましい。中退共などの外部積立を使う場合は、掛金の損金算入時期や解約時の取り扱いも事前に確認しておくとよい。

採用・定着への活かし方

退職金制度は導入して終わりではなく、求人票や採用面接、オンボーディングの場で制度の内容を丁寧に説明することで初めて採用力に結びつく。特に中途採用者は前職との待遇比較をするため、支給条件や勤続年数の下限を分かりやすく伝えることが内定承諾率に影響する場合がある。

既存従業員に対しても、入社時だけでなく節目の面談などで制度を再確認する機会を設けると、長期勤続へのモチベーションとして機能しやすい。制度の存在自体が周知されていなければ、採用にも定着にも効果を発揮しないため、社内外への発信は継続的に行う必要がある。

この記事のまとめ

  • 退職金制度は任意の福利厚生だが、いったん就業規則に定めると規程どおりの支給義務が生じる
  • 相場は業種・規模で幅が大きいため、公的統計や中退共の情報を参考に自社の支払余力に合わせて設計する
  • 積立方法は中退共・企業型DC・DB・社内引当など複数あり、事務負担と資金繰りの両面から選ぶ
  • 制度導入後の水準引き下げは労働条件の不利益変更にあたり容易ではないため、無理のない水準から始める
  • 制度は導入して終わりではなく、採用面接やオンボーディング、節目の面談で説明を続けることで初めて定着効果を発揮する

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よくある質問

退職金制度は必ず導入しなければならないのですか。

法律上の義務ではなく、退職金を支給するかどうかは会社が任意に決められる。ただし就業規則に退職金の定めを置いた場合は、その規程どおりに支給する義務が生じる。

中小企業退職金共済(中退共)とは何ですか。

国が関与する中小企業向けの退職金積立制度で、毎月一定の掛金を金融機関を通じて納付し、従業員の退職時に共済から直接退職金が支払われる仕組みである。掛金の一部に国の助成があるとされ、事務負担が比較的軽いことから中小企業で広く利用されている。

退職金制度を後から見直すことはできますか。

見直し自体は可能だが、水準を引き下げる変更は労働条件の不利益変更にあたるため、合理性の説明や労働者への周知など一定の手続きが求められる。制度導入時から、将来にわたって無理なく支払い続けられる水準を設計しておくことが重要である。

自己都合退職と会社都合退職で退職金に差をつけてもよいですか。

多くの企業で、自己都合退職の場合に支給率を下げる制度設計がとられている。差を設ける場合は、退職金規程に計算方法や係数を具体的に明記し、従業員に周知しておく必要がある。

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