離職に伴う採用コストの計算方法|1人辞めると失う費用の考え方
2026年8月31日 公開 ・ 約7分で読めます
1人の離職で会社が失う費用は、求人広告費だけでは測れない。募集・採用、教育、生産性ロスの3要素に分けて離職コストを計算する方法と、その数字を定着施策の投資判断にどう使うかを解説する。
離職コストを計算する意味|「見えない出費」を可視化する
離職が発生しても、退職金以外に会社から現金が出ていくわけではないため、経営者にとって離職コストは実感しにくい費用である。しかし採用活動の広告費、面接にかけた人件費、教育期間の生産性低下などを積み上げると、1人の離職で数十万円から百万円単位の負担が生じている場合がある。
離職コストを数字で把握しておくと、定着施策への投資判断がしやすくなる。「オンボーディングの改善に月5万円かけるべきか」といった意思決定は、離職1件のコストが分からないと比較のしようがない。まずは自社の離職コストを大まかにでも試算することが出発点になる。
離職コストの3つの構成要素
離職コストは大きく「募集・採用コスト」「教育・立ち上げコスト」「生産性ロス・欠員コスト」の3つに分けて考えると計算しやすい。求人広告費や人材紹介の成功報酬だけを見て「採用コスト=離職コスト」と捉えてしまうと、実際の負担を大きく過小評価することになる。
この3要素はそれぞれ発生するタイミングが異なる。募集・採用コストは欠員発生から採用決定までの間、教育・立ち上げコストは入社後の一定期間、生産性ロス・欠員コストは欠員発生時点から後任がひとり立ちするまでの期間、というように時系列で捉えると漏れなく計算できる。
募集・採用コストの計算方法
募集・採用コストには、求人広告掲載費、人材紹介会社への成功報酬(一般に想定年収の30〜35%程度が相場とされる場合が多い)、合同説明会や採用イベントの出展費用、母集団形成のための広告運用費などが含まれる。加えて、採用担当者・面接官・現場責任者が書類選考や面接、面接後の評価会議に費やした時間を時給換算した人件費も忘れずに含める。
簡易的な計算式としては、「(広告費+紹介手数料+採用担当者の人件費+面接官の人件費)÷ その期間の採用人数」で1人あたりのコストを出す方法がある。中途採用の場合は媒体費だけで数万〔円〕〜数十万円、紹介経由では成功報酬だけで年収の3割前後になることが一般的なため、複数の採用手法を併用している会社ほど、手法ごとに按分して計算する必要がある。
教育・立ち上げコストの計算方法
入社後は、新入社員本人の給与だけでなく、教育担当者・OJT担当者がついている期間の人件費、研修プログラムの外部委託費、マニュアル整備の工数なども離職コストの一部として計算する。特に試用期間中は本人の生産性が低い一方で教育側の工数がかかるため、「本人給与+教育担当者の按分人件費」を試用期間の月数分積み上げると実態に近い数字になる。
一般的に、新入社員が独り立ちして一人前の生産性を出せるまでには数カ月〜1年程度かかる職種も多い。この期間の「本来の生産性との差額」も広い意味での教育コストと捉えられるが、まずは人件費ベースの直接コストだけでも計算し、余力があれば生産性差分を加味する二段階のアプローチが実務的である。
生産性ロス・欠員コストの計算方法
離職から後任の採用・育成が完了するまでの間、その業務は他のメンバーが兼務するか、業務が滞留するかのいずれかになる。兼務による残業代の増加、納期遅延や品質低下によるクレーム対応コスト、既存メンバーの疲弊による連鎖離職のリスクなど、直接の支出以外の損失も含めて考える必要がある。
簡易的には「欠員期間(採用決定までの日数+教育期間)× その職種が生み出していた1日あたりの粗利または売上貢献額」で概算できる。営業職やドライバー職など、個人の生産性が売上に直結する職種ほどこの生産性ロスが大きくなりやすく、逆に管理部門などは兼務でカバーされやすい傾向がある点も踏まえて職種別に試算するとよい。
簡易試算式と自社での使い方
ここまでの3要素を合計すると、「離職コスト=募集・採用コスト+教育・立ち上げコスト+生産性ロス・欠員コスト」という式になる。厳密な会計処理を目指す必要はなく、経営判断の材料として桁感(数十万円なのか百万円を超えるのか)をつかむことが目的である。
実務では、職種別・雇用形態別(正社員・パート・アルバイト等)に離職コストのひな形をExcelなどで一度作っておくと、以降は人数や期間を入れ替えるだけで概算できるようになる。特に離職が繰り返される職種があれば、その職種の離職コストを優先的に計算し、定着施策の投資対効果を検討する根拠として使うことができる。
離職コストを踏まえた定着投資の考え方
離職コストが可視化できると、「離職を1件減らすことにいくらまでなら投資できるか」という発想で定着施策を検討できるようになる。例えば1人あたりの離職コストが80万円と分かれば、月数万円のオンボーディング施策や1on1の仕組み化にかけるコストは相対的に小さく見え、投資判断がしやすくなる。
離職理由の把握や退職時の丁寧なヒアリング(一般に「退職面談」と呼ばれる)も、次の離職コストを減らすための情報収集として位置づけられる。数字と現場の声の両方を組み合わせることで、限られた予算をどの定着施策に配分すべきかの優先順位がつけやすくなる。
この記事のまとめ
- 離職コストは「募集・採用コスト」「教育・立ち上げコスト」「生産性ロス・欠員コスト」の3要素に分けて計算すると実態が把握しやすい
- 求人広告費や紹介手数料だけでなく、面接官・教育担当者の人件費や欠員期間の生産性ロスも含めて試算する
- 職種別・雇用形態別に簡易試算のひな形を作っておくと、以降の計算と経営判断が速くなる
- 離職コストが可視化できれば、定着施策への投資額を「離職1件を防ぐ価値」と比較して判断できる
- 数値の精度よりも、桁感(数十万円か百万円超か)をつかみ、優先すべき職種・施策を特定することが目的である